結婚指輪

裏で調査をしながらも、私は夫と話すようにしていた。他愛のない事、子どもの事、仕事の事、いろんな話をするようにしていた。これはいつも通りの行動であり、反対に話さなくなると変に思われると思い話していた。

そういえばと思った。夫は結婚指輪をしていない。仕事に支障が出るのもあるが、結婚当初から指のサイズが変わってしまい、付けられないのだ。

夫に提案してみた。

「結婚指輪作り直さない？」

不倫相手がいるのだったら、何かしら理由をつけて断るかと思った。だが、夫からの返事は

「そうしようか。」

だった。

今度は私が少し面食らった。結婚指輪をして職場に行くの？不倫相手が見たらどう思うとか考えないの？むしろそんなこと気にもしないほど、関係が進んでいるの？もしかして、何も考えてないの？

数秒の間で、いろんな考えが頭を巡った。だめだ。”嬉しいこと”だとしないと。

すぐに、態度を戻した。

「じゃあ、今度の土曜日に指輪を見に行こうか。」

不倫している人は、どういう思考なのか。分からなくなった。まだまだ情報としていろんな経験談を聞かないと、普通の態度をとれなくなってしまう。

私は”とても嬉しい”態度を全面に出し、一緒に布団に入った。すぐに夫は寝息をたてて眠った。

ーーー何が正しい行動なのか。分からなくなってきた。

この時の私は、とても不安定だった。体もおかしかったと思う。食欲は湧かなかったが、食べないといけないと思い、意図的に食べていた。しかし食べても食べても栄養にならないようで、どんどん体重が落ちていった。