新しい結婚指輪が完成した。
その連絡を貰ってから、夫と話をし、スケジュールを調整していた。
世間は春休みを迎えており、子ども達を私の実家に預け、二人で出かけることにした。
私の実家の両親は、夫の不貞の事はまだ知らない。私たちが二人で出かけることにとても喜んでくれた。
「たまにはそういったことがないとね!今までなかったんじゃない?子ども達は任せておいて、二人で楽しんでおいで。」
とてもありがたかったが、それと同時に、この両親を悲しませてしまうのだろうかと胸が痛んだ。できることなら、当事者だけで解決したいと思っていた。
結婚指輪を取りに行く。注文した店舗に赴き、説明を受ける。お互いで指輪をはめ合い、写真も撮った。
幸せを感じていたと思う。私は。
もしかしたら夫の不貞が、この指輪をはめることでなくなってくれるかもしれないと淡い期待も持っていた。夫と相手が別れてくれたらよいと思っていた。
他愛のない話をたくさんした。手を繋いで歩いた。お昼には、少し有名どころのレストランに行こうと思っていたが、予約が取れなかったので「また今度」の話もしていた。
帰り道、私は夫を誘ってみた。
実はこの土地は、私が今一番嫌悪感を抱いている土地だった。なぜなら、夫と不倫相手が逢瀬を重ねていた土地だったから。
不倫相手と逢瀬を重ねた土地で、妻から誘われる。夫はどんな反応をするだろう。
結果は「No」だった。
急に不機嫌になり、そんな気はないとばかりに繋いでいた手を振り払われた。
「どうして行かないといけない?意味が分からない。レイは行きたいの?何で?」
心の中で大きなため息をついた。こちらとしても、プライドを捨てて誘っているのだ。
問答を繰り返した後、結局は行くことになった。しかし、夫はホテルに着くなり「疲れたから寝る。」と言って寝てしまった。
ーーー私にはこんな態度になるんだな。相手とは時間が許す限り一緒にいるのに。
誘ったホテルも不倫相手と行っていたホテルだ。携帯の検索結果の上位に出てきたと、さも無知であるかのように装った。
虚しかった。でも、切り替えよう。私はホテルの部屋を写真に収めた。動画にも撮った。内装やガウンなどすべてといえるほど撮った。
なぜこんなことをするのか。それは、夫と不倫相手とのホテルでの写真の多くは、ここで撮られたと裏付けるためだった。
情けなくなるほどに、いろんなアイテムがぴったりと合致した。
時間だ。夫を起こす。ホテルを出て帰路につく。後で子どもを迎えに行こう。
今日を振り返ってみた。いろんな収穫はあった。
左手の薬指を見る。とてもキレイ。しかし、その美しさとは真逆に、私の心はくすんでいた。
コメント